「チョムスキー、世界を語る」読了

チョムスキーの警世書のなかでもかなり分かりやすい部類に入るだろう。言わずもがなではあるが、アメリカの覇権によってこの地球上の人間の暮らしがいかに憂慮すべきものとなったかを明快に語っている書物である。とりわけ政府、大企業、メディアが一体となった利害構造のなかに入って人心操作を行うことで、ますます貧富の差が広がる姿が懇々と語られている。「福島」以後の私たちには重く響く内容だ。
 アナキストとしてのチョムスキー議会制民主主義を最良の社会制度だとは思っていない。理想はある種のサンディカリズム、つまりは「自治主義」的な直接制民主主義にあるという考えだ。けれども社会変革は個人が一人で何かをなしうる話ではない。私たちはどんな旗印の下に集まればよいのだろうか? それについてはデマゴギーたることを嫌うチョムスキーはほとんど何も語らない。そこが私たちがチョムスキーを読む際の難しさでもある。
 チョムスキーの批判は誤ってはいないだろう。けれどもどうしてサンディカリズムを「芸術」の空間に認める視点が彼にはないのだろうか。あるいはヨーロッパの社会民主主義にもうちょっと歩み寄ってもいいではないかとも思う。
 ともかく本当に資本主義の暴走と独裁的社会主義をともに乗り越えて、私たちは未来を築くことができなければ負けなのである。それを思う時、チョムスキーの問題提起は避けては通れまい。

チョムスキー、世界を語る

チョムスキー、世界を語る