シンハラ語

 あるところでスリランカから来た偉いお坊さんのスピーチを聞いた。インドの東に浮かぶ、かつてセイロンと呼んだ島国である。アルファベットになると「スリ」と「ランカ」は分けて書くから「ブダ=ペスト」のようにふたつの地方が合成されているのかと思ったら、そうではないようで「スリ」は「美しい」とか「輝く」という意味で、「ランカ」があの島の名前なのだそうだ。
 お坊さんはたぶん、シンハラ語というスリランカの公用語を使ってお話になった、のだと思う。独特にムチャムチャッとしてるといいうか、カチャカチャとしてるというか、どんな言語もはじめてまともに聞くのが私は楽しい。これがときどき不思議に日本語みたいに聞こえる言い回しを含む面白さは、実際に聞いた人にしか分からないだろう。スリランカにはほかにタミル語という、かつて国語学者の大野晋さんが日本語の語源だという説を唱えたことがあることばがあるから、それもなるほどと感じたりした。
 通訳に出てきたスリランカ人の男性は、緊張しすぎていたのか、はてまたお坊さんのお話が高尚すぎて難しかったのか、ともかく定めがたき理由によって長いお話が、あれと思うくらい短い、そしてそれにも通訳がほしくなるような日本語になり、お話はお坊さんの神々しい余韻だけを残して終わった。
 あのお坊さんが何を話していたのかは永遠の謎となった。