樽酒礼賛

 お祝い事のパーティーでしか飲む機会のない樽酒を、あるお店でなみなみと堪能した。カウンターの前に堂々と樽が積まれていて、注文すると樽から手元の枡へと酒を注いでくれる。樽酒が飲める店は東京でもそれほどないから、珍しい店を見つけたものだ。日頃から日本酒を飲むならやや辛口のものと決めてかかっていた私だが、樽酒の旨みを知ってしまうと、独特の杉の香りが調和するのは、若干甘い、指標で+2くらいの酒だと分かって辛口主義を修正した。もうこれを飲んだら、瓶からの酒なんか飲めない(と言ってみたいだけだが)。考えてみれば日本酒の歴史に比べれば、瓶詰めは明治以降だろうからごく最近のことだ。江戸時代の酒はことごとく樽の香りと共にあったのだろう。これが本来の酒なのだ。
 ここ、つまみも美味、しかもお手ごろ価格。私と飲む方は、しばらくはここにご案内させていただくことになりましょう。