「ワイン探偵ルベル」(TV)

 先週から今週にかけて第1話から第4話までが日本でも放映された(ANXミステリー)フランスのワイン産地ボルドーを舞台にした探偵ドラマ「ワイン探偵ルベル」は、その独自の設定も魅力的であったが、登場人物の人生や心理がよく掘り下げられていることもあってなかなかの見ごたえであった。ちなみにフランス語での原題はSang de la vigne「ブドウの血」であって、原作の小説はすでに15作ほど刊行されている。ドラマは年に4本だけじっくり時間をかけて撮影されている。第5作までがすでにフランスでは放映されているが、これからも続くらしい。
 主人公のバンジャマンは初老のしぶい男である。国際的にも名声を得ているワイン評論家である。ガイドブックも執筆したり講演会もやっているからそう呼んだのだが、正確にはエノログという、ワイン生産家(ボルドーならシャトーということになる)と契約してワインの醸造技術のアドバイスをする専門家である。このバンジャマンの周辺にさまざまな事件が起こり、やむをえず巻き込まれていく彼が、ワインのスペシャリストならではの知識と経験を手掛かりに事件を解明していくのである。警察には彼の友人の刑事がいるが、刑事はバンジャマンの勝手な捜査を必ずしも快くは思っていない。
 バンジャマンにはワインの分析を行う研究所があって、そこにはふたりの若い助手が働いている。青年シュヴェールは修業中だが、周囲に美人が現れるとすぐに惚れてしまう軟弱キャラだ。才色兼備のマチルドは醸造化学の専門家でクールな知性がウリだが、快活さも持ち合わせている。そのほか、離婚したバンジャマンにとって今の恋人である同業者のフランスもバンジャマンの力強い味方である。この初老のムシューとマダムがすてきな恋人同士なのがじつにフランスっぽくていいなと思う。背景がワインなだけに成熟に価値を見出すテーマが心憎いではないか。
 探偵ものだから話の筋立てには立ち入らない。しかしながらシャトーの買収に乗り込んでくる成金階級から、ブドウ畑ひとすじの農民まで、ここに登場してくる人々はフランス社会の縮図そのものなのであり、かれらがまたじつにそれっぽい風貌と物腰で登場するのもこのドラマの魅力である。
 彼らはみなワインをフランスのアイデンテティーがこもった文化財のように愛する人たちである。第3回のエピソードにこんな印象深いものがった。事件が起こったシャトーのワインをかつてバンジャマンがガイドブックで酷評したことがあったのだが、彼はその時にそのシャトーがワインを売ろうとするあまり、シャトー・マルゴーのコピー商品を作ろうとしたことを見抜いていた。ワインは人気を博して売れるようになったが、バンジャマンはそれをあえて書かずに、このシャトーの個性が出ていない、と書いたのであった。経済よりも個性こそが命なのだとこのドラマは訴えている。