逆のエレメント

 観光というものは、日常と全然ちがう趣にひたることが何よりも肝要である。現地の人々には当たり前でも、外来の人間の目に珍しければ、それは即、観光に値する。
 フランスへ旅行に行くと、列車の車窓からどこまでも広がるなだらかな丘に感動を覚える。けれども日本に来たフランス人は列車がトンネルに入ったり橋を渡ったりすると歓声を上げたくなるという。まあ、要するに珍しいということだ。
 フランス第一の観光都市はまぎれもなくパリであるが、第二の都市はというと日本にはあまり知られていないラ・ロシェルという大西洋岸の小さな港町である。筆者は10年間くらい、毎年数週間をそこで過ごしたことがあるが、多くの観光客がいる。けれどもその中に外国人はほとんどいない。内陸育ちのたいていのフランス人にとって海や港は珍しい。老後のバカンスは海辺でという熟年仏人がいっぱい訪れるのだ。逆のエレメントを求めるのだ。
 先日、コルシカ島の四季を記した文章を読んでいたら、島には10月になると大勢のスイス人が訪れると書いてあった。山国の人たちにとっては、フランス語圏の南の島は絶好の逆エレメントなのだろう。
 今年の夏休みはせせこましい都心を離れて、親戚のいる八郎潟へ、地平線を見に行こうかなと考えている。