0021 マドモワゼルがなくなる!

0021 マドモワゼルがなくなる!
 フランス語では男性のことをMonsieurムシューと呼びます。男性に対する呼びかけの語(敬称と言います)はこれしかありません。ところが女性のことはMadameマダムあるいはMademoiselleマドモワゼルと呼ぶわけでして、どこが違うかというと、ようするに結婚するまではマドモワゼル、結婚するとマダムになるわけです。女性だけが社会生活において、婚姻上のステータスをつねに示さなければならないわけです。
 これは平等ではないという発議がかなり前からありました。もっとも同種の問題は英語にもドイツ語にもありまして、フランスだけの問題ではありません。最初に動いたのは英語でしょう。未婚のミス、既婚のミセスの区別をやめて、女性はMsミズで統一という路線を歩み始めました。ミズという敬称は1930年代から早くも用いられていたらしいです。一般には1973年に国連がこの方針を採用した時期から広く用いられるようになったとされています。女性解放運動が盛り上がっていた頃ですね。
 ドイツでもマドモワゼルに相当するフロイラインは、やはりこの動きを受けて80年代に使われなくなったといいます。ただしドイツ語はミズのような新語を採用したわけではなく、マダムのほうに相当するフラウを女性一般に対する敬称として用いるようになりました。
 それから30年たって、ようやくフランス語も政府が動き出しました。大統領選挙の年ですから、サルコジが女性票の人気取りに出た、のかどうかは知りませんが、ドイツと同じようにマドモワゼルをやめて、女性に対してはマダムで統一という方針を打ち出しました。まずは政府や自治体の公文書からマドモワゼルの使用を禁止する通達(正確には首相通達)をこのたび出しました。もう印刷してしまったものは回収には及ばないが、今後、公的な書類で名前を書くときに、□M. □Mme □Mlle というチェック欄から□Mlleは無くします。
 この動きの背景には昨年の秋に、女性運動グループがこの問題を取り上げて署名運動を起こした背景があったようです。もっとも女性解放運動にかかわる人にもさまざまな考えがあって、マドモワゼル問題などよりも大事な問題が多々あるという姿勢で、このテーマを採用しなかった団体もあるようです。
 ともかくドイツではもはやフロイラインは死語だとも言われますから、もうしばらくするとフランス語の日常語からも、マドモワゼルが消えてしまう日が来るのでしょうか?