職人さん万歳!

 いい職人さんとの出会いには人を幸せにする力がある。今日はデパートに万年筆のメーカーから職人が来てペン先の調整をするという案内をもらったので出かけてみた。ハードユーザーだとはいえ、秋に買ったばかりの中字のペン先が広がってしまったのか、太字のようになってしまって書きにくい。何万円もするペンではないのにていねいに顧客ケアをしてくれるメーカーだ。このメーカーには手作りのオーダーペンを専門にする子会社があって、職人さんもそこからの派遣だ。
―ちょっとインクが出過ぎるみたいです。
 職人さんは一呼吸おいてから、特徴のある山羊ヒゲを動かしながら、
―この型の中字はちょとインクの出を多くしてあるんです。じゃあ、ちょっとシャープにしましょう。
 と言って、ルーペでペン先をのぞきながら作業を始めた。
―ペン先をひねって字を書く癖がありますね。段差ができてます。
 やっとこみたいな道具を出してペン先を、クィっとやっては石板(砥石なのかしら)の上でくるくる書いて、それを何度か繰り返して数分、はい、どうです、と手渡されたペンは、もはや今までと同じペンだとは思えないくらいシャープな書き味になって生まれ変わっていた。
―このペン、使い込んでくださいね。いつでもこの状態にしますから頻繁に調整に来てください。
 またこの人とお会いできる日を思うと、ちょっぴり幸せになった。