ドキュメンタリー劇

 ドキュメンタリー劇というジャンルがドイツなどを中心に作られるようになってきた。昨日リーディング公演で見せてもらったファイエル&シュミットの『キック』という作品もその系譜の作品である。旧東ドイツで、ネオナチの若者たちに少年が殺されたという実際の事件に題材をとったものだ。メディアの一方的、扇情的な報道が歪めてしまった事実を、作家は証言や記録を丹念に再構成することによって修正を求める。あるいは事件の、矛盾をはらんだ多義性に人々の意識を向けようとする。
 だから、こういう劇を上演するときは、対極にあるメディア的言説をきちんと定位しておかなければいけない。また、事件の一義的な解釈へと観客を導びいてはいけない。それがドキュメンタリー劇の生命線だ。それがないと、単なるパズルに等しい(それこそメディア的言説の正体にほかならない)ゲームに陥ってしまう。