登場人物の解体

 20世紀の演劇が登場人物を解体し続けてきたプロセスだったことは今さら言うまでもない。そのプロセスをまとめて話す講義の骨子を考えているうちに、そのゴールが現代演劇の中心テーマではなくなっていることに気づいて戸惑った。つまりこの問題は、ある時点で不意に姿を消してしまったのだ。それがいつ、どんなふうに起こったかを検証するたまには、いくつかの仮説に頼らなければならない。たとえば70年代に始まったいわゆる「テクスト殺し」を理由に挙げることも可能だろう。また、ブレヒト的な異化の演技論の立場からこの現象にアプローチすることもできるだろう。いずれにしろ一時期、隆盛をきわめていた「ごっこ芝居」がめっきり姿を消し「自分探し」と言われたアイデンティティー再発見の仕掛けのあれこれもどこかへ行ってしまったことと、登場人物の解体プロセスが足跡を消したことはつながっている。ピランデルロを逆手にとれば、作者が登場人物を探す時代へと風向きが変ってしまった。